短編物語
それは革命だと言う人も居る
それは新時代の幕開けと言う人も居る
それは自然な事さと言う人も居る
それは世界の終わりと言う人も居る
それを積極的に取り入れようとする人
それを遠くから見ている人
それを止めさせようとする人
悩んで行き場を無くす人
色々な人が色々な感情を、抱えていた。
プラスがあるからマイナスがあるように、この世は光の世界と闇の世界が存在する。
決して混じり合うことの無い世界。
その二つの世界が、今までに無い局面に晒さわれていた。
アガスティアの葉の消失
そのカウントダウン。
黒髪の少女は、ただ見つめていた。
私は一人で旅をしていた。
ある日モンスターに襲われている少女を偶然助けた。
助けたと言っても、私の目的の為ついでにモンスターを倒しただけ。
少女は名前をメルと言った。
銀色の髪は美しく、瑠璃色の瞳をしていた。
少女は明るく無邪気だったが、
盲目だった。
先天性の盲目で一切の光すら感知出来く何も見えない。
_捨て子か。
今の腐りきった世の中、特別めずらしい事では無かった。
何も思わなかった。
なんとなく私は少女と旅をする事になった。
小さく震えた手は、しっかりと私の手を握っていた。
メルは素直な良い娘だった。
明るい性格で、よく喋るようになった。
グズでノロマでおっちょこちょいで、私が居ないと何も出来ない。
長い月日を共にし、メルが死なないように私は守った。
ボロボロになっても守った。
この世界は美しく、数えきれない色に満ち溢れていて、見上げる満天の星空は無限に広がり、月という大きな丸い星が輝いていて、人々はそんな綺麗な月をいつも見ている。
心と月は繋がっているんだよと私はメルに教えた。
メルは見たいとは決して言わないけど、盲目の目でいつも空を見上げてるフリをしては、嬉しそうに胸に手を当てていた。
いつか、この美しい世界を見せてあげたい。
それが私の生きる道しるべとなっていた。
ふと立ち寄った寂れた町で、どんな病気も治せる魔女が居る事を耳にした。
星々が沈むとされている断崖絶壁。
その世界の果てに、月を管理している魔女が居る。
魔女は大切な記憶と引き換えに、あらゆる病気を治すという。
私は覚悟した。
メルの盲目を治す為なら・・・例え私の記憶を奪われてでもメルを救う事が出来るのなら・・・!
町を後にする。
最果てへの道のりは想像以上に長かった。
険しい渓谷を抜け
大戦の爪痕を残す大地は腐り大穴を開け、そこに溜まった錆びついた水は異臭を放つ
核の冬という氷河に沈む町の上も歩いた
酸性の雨が降る砂漠
獣の息遣いが絶えない太古の深い森を抜け
世界の果て
断崖絶壁に辿り着いた。
崖の断面は何世代も前に消滅したとされる、第4世代から第2世代のロストテクノロジーで覆われていた。
星々は彗星になり光となって目の前を通り、崖の奥深くに流れ吸い込まれて行く。
その傍ら
古めかしい魔女の館があった。
古い木で出来たドアは、大きな音をたてて開く。
魔女は待ち構えていたように部屋の奥に佇んでいた。
「コイツの、メルの目を治してくれ!その代償なら何だって受け入れる!」
ロウソクの炎が揺れる。
壁に掛かった振り子時計が鐘を鳴らす。
魔女は長い間、ジッと私を見つめる。
「それは出来ない相談だね。」
「何故ですか!?」
「…あんたは激しい劣等感の中、自ら孤独の鎖を科せ生きてきた。そう。誰も信用せずにね。」
「しかしその心には限界があった。だからアンタは虚像を作ったんだ。か弱い一人の少女を作り上げ、自らの生きる希望にしたのさ。」
「無いモノを自分で作り、自分の力で自分を救っていたんだ。」
「滑稽だよ。あんたは誰の力も借りず生きる事が出来る大した奴なんだよ。」
ーーそんな…。
いつの間にかメルが居ない。
ーーメル!
ーーメル!!
何処だ!?
返事してくれよ!!
消えていた。
「この館に入った時、いや…始めから盲目の少女なんて存在していないのさ。」
膝から崩れていく
いつの間にか、私が守ってるんじゃなくて、私が守られていたって気付いたんだ!
でもそれも…!そんな…
そんな…!
メル……メル…ッ!!
私は、希望を失い
館を後にした。
メルが始めて目にした光景は、
色とりどりの美しい風景では無く、
大切な人が
扉を開け出て行く光景だった。
いくら声をあげても届かない
あの人は振り向かない
扉がゆっくりと
音をたてて閉まっていった。
窓の外には満天の星空が輝く。
黒髪の少女は、ただ見つめていた。