始まらない聖剣伝説2
<ケース1>
誰かの夢に出てみよう!
男は疲れていた。
やれ売上だ契約だ、今月のノルマ達成だ、ポジティブシンキングだ、本気で朝礼だ、大声で夢を語るだ、握手だ、仲間だ、最高だ、働くって幸せだ…!
自己啓発という名で強制的にスイッチを入れる経営方針。おかしくね?それっておかしくね?
確かに実際売上が上がったり、仲間意識が強くなったり、前向きな人生になった風に思える。
思えるだけ。
そう思わせるだけ。
だって車だってギアを1-2-3-4-5って上げていくのに会社入ったらいきなり4速ぐらいからスタートしろだよ?バカじゃねえの?進むわけねえじゃん、車体に負荷かけすぎだっつーの。
夜
クタクタになり、帰り道を歩く
はぁー…マジ疲れた。なんかさー、夢って何だろうな…。子供の頃、カッコイイ剣とかに憧れてたなー。光輝く剣が森の中に刺さっててさ、それ抜いて勇者になってさ、悪い奴らみんなやっつけてさ。って今でもそんな妄想しちゃう俺って痛ぇなーマジ笑っちゃうよ。
って、なんで俺森ん中歩いてんだよ!
…ったくここ何処だよ。スマホの電源も入らねぇし、真っ暗だし。
「え…?」
男が子供の頃夢見てたように、目の前には地面に突き刺さる光る剣があった。
頭に声が響く
<我が名は聖剣クラウ・ソラス。汝の心に光を取り戻したければ、我を探し引き抜くがいい>
男は剣を引き抜き、天高く掲げる
<北北西の山を目指すが良い。待っているぞ勇者よ…>
男は確信した。
運命という歯車が噛み合い動きだす事を
いつも思ってた。
大切な何か、やらなければいけない大事な事
手に握る聖剣の確かな感覚
これから待ち受ける壮絶な運命の中
男は自信と希望に満たされていた。
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…スオ…
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…ヤスオ…
「やすお!いい加減起きなさ!!」
男は目覚める
しかし不思議と脳は冴えていた。
「アンタうなされてたけど、何か夢でも見てたんかい?」
「んーーー、忘れたっ!」
だよねっ!
始まらないね!